遺言書とは?種類や効力を持つ内容、作成方法について
目次
「遺言書」とは、被相続人が死後の遺産分割方法やその他の遺志を明確に記した文書のことです。
遺言書を残すことで相続人間のトラブルを未然に防ぐことができます。
遺言書は作成者が亡くなった時に初めて効力が生じます。そのため、遺言書は何回でも書き直すことが可能です。
また、遺言書によって財産を引き継ぐ予定の人は、遺言者が亡くなるまでは財産に対して何の権利もありません。
法的に有効な遺言書を書くには特定の形式や要件を満たすことが必要です。
このコラムでは、遺言書が法的に無効にならないように作成の際に押さえるべきポイントをご説明いたします。
遺言書とは?
遺言とは、被相続人が死後の遺産分割方法やその他の遺志を表明したもので、これを文書にしたものが「遺言書」です。
録音や録画等のデータは、法律で定められた形式に当てはまりませんので、文書で作成する必要があります。
財産は基本的に遺言書に沿って分割します。相続人同士が揉めてしまう「争族」にならないためにも、遺言書を残すことは非常に大切です。
基本的に全ての方が遺言書を作成するべきですが、遺言書を作成する必要性が特に高いケースとして、次のような事例があります。
- 元配偶者との間に子供がいる場合
- 特定の子供に事業や財産を継がせたい場合
- 相続人以外に財産を遺したい場合
- 相続人同士が不仲な場合
- 相続財産が多岐に渡っている場合
- 配偶者や子供がいない場合
遺言書がないとどうなる?
遺言書がない場合には原則として法定相続分に従って遺産分割を行うこととなります。
相続人間で同意が得られれば、法定相続分に従わない遺産分割も可能です。
相続人間で同意を得るため協議をすることを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議で相続人間の同意が得られた場合には遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名押印をします。
遺言書の効力は?指定できる4つの内容
遺言書では次のことが指定できます。
- 相続財産に関すること
- 相続人の身分に関すること
- 遺言の執行に関すること
- その他、祭祀継承者の指定など
遺言書は被相続人の遺志とされ尊重されますが、絶対ではありません。
遺言書の内容に納得がいかない場合には、相続人全員が納得できる遺産分割をすることになります。
①相続財産に関すること
相続財産について、次の事項を記載することができます。
「相続分の指定」
相続財産全体に対する割合で分割するように指定することです。
例えば、「妻A 10分の4、長男B 10分の6」のように指定します。
「遺産分割方法の指定」
指定方法はいくつかありますが、一般的なのは特定の財産を特定の相続人に相続させるよう指定することです。
例えば、「妻Aには不動産、長男Bには車と現預金」のように指定します。
「遺贈」
遺言により、相続財産を相続人以外の特定の個人や団体に譲ることです。
なお、相続人に対しては「相続させる」と「遺贈する」のどちらの文言でも書くことはできます。「相続させる」と記載すれば、例えば相続登記の際に相続人が単独で申請できる等のメリットがあります。
「分割の禁止」
相続財産が多岐に渡っている、相続人に未成年がいる等の場合には、後のトラブル回避のために相続財産の全部、または一部について最大5年間分割を禁止することができます。
「相続人相互間の担保責任の指定」
相続した財産に問題があることが判明した場合に、その問題がある財産を相続した相続人に対して、他の相続人が相続分に応じてその損害を賠償する責任があるということです。その負担者や負担割合を指定できます。
②相続人の身分に関すること
相続人の身分について、次の事項を記載することができます。
「未婚で生まれた子供(非嫡出子)の認知」
非嫡出子は認知することで相続人になり、相続権を持つことができます。
「推定相続人の廃除」
「廃除」とは推定相続人の相続権を取り上げることをいいます。
推定相続人が被相続人に対し、重大な侮辱、その他著しい非行を行った場合、家庭裁判所の審判でその者の相続権が失われます。
「未成年後見人の指定」
未成年者が遺産相続をする場合には親権者の同意または代理が必要です。
親権者が不在の場合には「未成年後見人」の選定が必要になります。遺言書によって指定した場合には、相続後10日以内に市町村役場で手続きする必要があります。
「生命保険金の受取人の変更」
生命保険金の受取人の変更ができます。
遺言書に変更の旨の記載がある場合には、相続人が保険会社に受取人変更の通知を行います。
③遺言の執行に関すること
遺言の執行に関しては、次にあげる事項を記載することができます。
「遺言執行者の指定」
「遺言執行者」とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。
相続人の中から指定することもできますが、税理士等の相続の専門家を指定することもできます。なお、遺言書に「非嫡出子の認知」や「推定相続人の廃除」等の記載をする場合には必ず遺言執行者を指定する必要があります。
「遺言執行者の指定の委託」
遺言執行者の指定を委託することができます。委託する人を記載します。
④その他
その他、遺言書で次にあげる事項を記載することができます。
「祭祀承継者の指定」
「祭祀承継者」とは祭祀財産を受け継ぎ、祖先の祭祀を継承する人です。その家の当主に当たる人を指定することが一般的です。
「一般財団法人の設立」
遺言書に設立の意思と定款に記載すべき内容を記載します。
遺言による一般財団法人設立の手続きは、遺言執行者が行う必要があります。遺言執行者がいない場合には、家庭裁判所に申し立てをして選任してもらいます。
「特別受益者の相続分の指定」
相続人の中に「特別受益」を受けた人がいる場合に、その相続分を指定します。
「特別受益」とは被相続人から相続人が、生前贈与や遺言書などで受けた特別な利益を指します。
相続人間の不公平解消のために、「特別受益」の額を相続開始日時点に実際に残っていた相続財産の額と合算した上で各相続人の相続分を決めます。
「信託の設定」
「信託」とは財産の管理運用を委託することです。
相続人が事情により相続財産を管理できない場合には、相続財産の分割だけでは不十分といえます。
遺言によって信託を設定し、財産管理を委託することで相続人の生活が保障されます。
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3種類の遺言書の作成方法とメリット・デメリット
遺言書には、以下の3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
それぞれの特徴を下記の表にまとめました。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
---|---|---|---|
作成方法 | 本人が自分で遺言の本文、氏名、日付を自書し押印する | 本人が遺言内容を口述し、それを公証人が記述する | 本人が証書に署名・押印した後、封筒に入れ封印して公証役場で証明してもらう |
作成者 | 自分 | 公証人 | 自分 |
作成費用 | 0円(法務局保管料3900円) | 手数料として数万~数十万円(財産規模による) 証人への支払い(1人につき5千円から1万円程度) |
手数料として1万1千円 証人への支払い(1人につき5千円から1万円程度) |
秘密性 | 秘密にできる | 秘密にできない | 秘密にできる |
証人 | 不要 | 2人必要 | 2人必要 |
保管方法 | 自分(法務局保管もできる) | 原本は公証役場 正本・謄本は自分 |
自分 |
検認 | 必要(法務局保管する場合は不要) | 不要 | 必要 |
それぞれの遺言書には次で述べるように作成要件があります。
作成要件を満たしていない遺言書は無効になります。どの遺言書でも有効であれば優劣はありません。
複数存在する場合には、最後に作成された遺言書が優先されます。また、録音や動画による遺言は認められていません。
遺留分を侵害する遺言書であっても、法的には有効です。
ただし、遺留分を侵害された相続人が遺留分侵害額請求をすることがあります。
相続人同士で「争族」にならないよう、遺留分侵害には気をつける必要があります。
自筆証書遺言
「自筆証書遺言」は遺言者本人が遺言書本文、氏名、日付を自書し、押印して作成します。
なお、財産目録を添付するときはパソコンなどで作成したものを添付することも認められています。その場合には各ページに署名と押印をする必要があります。
メリット
- 費用をかけずに手軽に作成できる。
デメリット
- 遺言書の要件を満たさず無効になる可能性がある。
- 紛失や改ざんの恐れがある。
- だれにも発見されない可能性がある。
- 相続人が遺言書を発見した場合には、開封前に家庭裁判所に届け、検認を受ける必要がある。
令和2年7月から、法務局での「遺言書保管制度」が始まり、デメリットとしてあげた「遺言書の要件を満たさず無効になる可能性があること」以外は回避できるようになりました。
公正証書遺言
「公正証書遺言」は公証役場で2人以上の証人の立ち合いのもと、公証人がパソコン等で作成し、遺言者が間違いないかどうかを確認して最後に署名、押印をして作成します。
事前に公証役場への予約が必要です。また、遺言書の下書きをあらかじめ作成しておくとスムーズに作成できます。
メリット
- 無効になる可能性が低い。
- 証人が2人立ち合うため内容の信頼性が高まる。
- 裁判所の検認手続きが不要。
- 公証役場に原本が保管されるため、紛失や改ざんの心配がない。
デメリット
- 費用がかかる(手数料は財産規模と公正証書遺言の枚数によって決まり、数万円から数十万円かかることがあります)。
秘密証書遺言
「秘密証書遺言」とは、証人2名の立ち合いのもと、内容を秘密にしたまま遺言書の存在だけを公証役場で証明してもらう遺言書です。
遺言者の署名と押印がされていれば、他の内容はパソコン等や代筆でもかまいません。
遺言書を作成したら封筒に入れて封をし、遺言書に押印したものと同じ印鑑で封に押印します。
その後、公証役場で公証人が封紙に遺言書の提出日、遺言者の氏名、住所を記入し、遺言者、公証人、証人が署名と押印をします。
メリット
- 遺言書の内容を秘密にできる。
- 遺言者本人が記載したかどうかの確認が不要になる。
- 封と押印がされているので開封されればわかる。
デメリット
- 遺言者が一人で書くため、法的に無効な遺言書になってしまう可能性がある
- 手続きに手間と、費用がかる(2~3万円)。
- 裁判所の検認が必要になる。
- 遺言書の管理を自分でする必要がある。
手間がかかる割にメリットが少なく、実務上あまり採用されていません。
遺言書の開封前に検認が必要
「検認」とは家庭裁判所が相続人に対し、遺言書の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造や改ざんを防止する手続きのことです。遺言書の有効性を判断する手続きではありません。
検認は遺言書の保管者や発見した相続人が、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てます。
検認が必要な遺言書は、法務局の保管制度を利用していない自筆証書遺言と秘密証書遺言です。
検認せずに開封すると5万円以下の過料を科される可能性があります。
仮に開封してしまったとしても検認手続きは必要です。また封書に入れられていない自筆証書遺言も検認の必要があります。
法務局の自筆証書遺言保管制度とは
「自筆証書遺言保管制度」とは、令和2年7月から始まった、法務局での遺言書保管制度です。
法務局に遺言作成者本人が出向き、遺言書の保管を申請します。
保管制度を利用することで、紛失や改ざんの恐れがあること、誰にも発見されない可能性があること、家庭裁判所での検認の必要があることなど、自筆証書遺言のデメリットが解消されます。
また、法務局職員によって遺言書が形式を満たしているかの確認をされ、満たしていない遺言書は預けることができません。
内容については確認されませんので、預けることができても有効性を保証するものではありません。有効性のある遺言書を残すためにも公正証書遺言をお勧めします。
遺言書が無効にならないための作成時の注意点
遺言書の作成要件は厳格であり、様々な理由で無効になることがあります。
- 遺言者が15歳未満である。
- 遺言者が認知症などで判断能力を失っていた。
- 遺言者が強制的に遺言書を書かされた。
- 遺言書に形式的な不備がある。
- 内容が不明確である。
等です。
形式的な不備の例としては、日付がない、遺言者の署名がない、押印がない、内容が不明確、訂正の仕方が誤っている、夫婦など共同の名義で書かれている、などがあります。
内容が不明確である例としては、相続財産や相続させる人が曖昧に記載されている、などがあります。
専門家に遺言書の作成を依頼するメリット
厳格な作成要件がある遺言書を不備なく作るために、専門家に依頼することで次のようなメリットがあります。
- 遺言書の文案を提示してくれる。
- 遺言執行者になってくれる。
- 遺言書の保管をしてくれる。
また、専門家の中でも特に税理士に依頼することで、上記のメリットに次のメリットが加わります。
- 相続税の課税が予想される時には、申告まで対応してくれる。
- 相続財産の評価を適切に行うことで、相続人間の不公平感をなくすことができる。
- 相続税額の試算をして、相続税額を抑えた分割案を示してくれる。
- 納税資金が不足する場合、その対応策も提案できる。
遺言書の作成はキークレアグループにご相談ください。
遺言書を残すことによって、遺言者の遺志を相続人に伝えることができ、「争族」にしないことができます。
しかし、遺言書の作成要件は厳格で、法的に有効な遺言書を書くためには遺言書について詳しく知る必要があります。
キークレアグループには税理士法人の他にも行政書士法人があり、遺言書作成のご対応も可能です。
また、必要に応じて、提携先の弁護士や司法書士をご紹介することもでき、ワンストップでの対応が可能です。
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