【相続税対策】生前贈与の基礎知識|メリットや改正など
目次
生前贈与とは、読んで字のごとく、生前に贈与をすることです。
生前贈与の方法としては、「暦年贈与」と「相続時精算課税」という2つの方法があります。
暦年贈与は、毎年最大110万円まで非課税で贈与できる制度で、相続時精算課税制度は60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子供や孫への贈与に関する制度です。
また、最近の税制改正により、生前贈与における加算期間が3年から7年に延長されたり、相続時精算課税制度に110万円の基礎控除が創設されたりなど、変更点も出ています。
生前贈与とは?
暦年贈与 | 毎年最大110万円まで非課税で贈与できる制度 |
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相続時精算課税制度 | 60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子供や孫へ2,500万円まで非課税で生前贈与ができる制度 |
生前贈与とは、贈与者が生きているうちに、相続財産を贈与することを指します。
年間110万円までの贈与は非課税となっており、110万円を超える場合は贈与税が課されます。
生前贈与の方法として主なものは暦年贈与と相続時精算課税制度です。
節税対策としてこれら贈与の方法をとる場合は、贈与税と相続税を試算し、どのような制度を利用するのかの検討が必要です。
暦年贈与(年間110万円の非課税枠)
暦年贈与とは、毎年最大110万円まで非課税で贈与することができる制度です。
110万円を超える贈与の場合は、贈与税の申告が必要です。
受贈者(贈与を受ける人)が相続時精算課税制度の選択をしなければ、自動的に暦年贈与となります。
贈与者が亡くなった場合は、亡くなる直近3年前(2024年以降は7年前)の贈与財産は相続財産に加算されます。
これは110万円以下の贈与も同様に加算されますので、110万円の非課税枠は無かったものとなります。
なお、定期贈与(毎年一定の金額の財産を贈与することが確定している贈与)は注意が必要です。
毎年110万円の現金を10年間毎年贈与するという約束をした場合、定期贈与に該当し、1,110万円を贈与したこととなり、1,110万円に対して贈与税が課されてしまいます。
加算期間が3年から7年へ延長
2023年の税制改正で暦年贈与の加算期間が死亡前3年から7年に延長されることとなりました。
高齢者が所有している財産の若年層への資産移転を促し、消費・経済の活性化を進めることが改正の目的とされています。
海外には10年や15年などの国もあり、日本も7年からさらに延長されていくことが予想されます。
この改正は2024年(令和6年)1月1日から施行され、早めの対策を検討しておく必要があります。
相続時精算課税(累計2500万円の非課税枠)
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子供や孫へ最大2,500万円まで非課税で贈与できる制度です。
2,500万円を超える贈与をした場合は、その超えた部分に対して、20%の贈与税が課されます。相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は、贈与者が亡くなったときの相続財産に加算され、相続税の計算に含まれます。
贈与税を支払っている場合は、相続税から控除されます。
この制度を利用するためには、贈与税申告書に相続時精算課税制度選択届出書の添付必要で、一度選択すると暦年課税に戻ることができなくなります。
年間110万円の基礎控除の創設
相続時精算課税制度は、2023年の税制改正で、年間110万円の基礎控除が創設されました。
これにより、2024年(令和6年)1月1日以降の贈与では、改正前の2,500万円の枠とは別に、110万円の非課税枠を使うことができ、110万円部分は相続財産への加算もされません。
つまり、110万円までは贈与税と相続税がかからなくなりました。
また、110万円以内の精算課税贈与については、贈与税の申告も不要となりました。
相続税対策としての生前贈与のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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生前贈与は、相続税対策としてよく用いられますが、メリット・デメリットがあります。
例えば、相続のトラブルを回避するためのお金として使えるというメリットがある一方で、贈与した人の「あげる」という意思と贈与してもらった人の「もらった」という意思の合致が必要なので、税務署から贈与が認められない可能性があるというデメリットもあります。
メリット①相続税の節税となる
生前贈与は、相続税が課される相続財産を減少させる行為であるため、節税の効果があると言えます。
暦年贈与は毎年最大110万円まで非課税で贈与することができるため、贈与する人数や贈与する期間などによっては、多くの財産を生前に次の世代に移すことができ、節税となります。
また、相続時精算課税贈与制度を選択することは、相続時に相続財産に加算されるため、節税効果は無いとされています。
しかし、将来的に値上がりが期待される不動産や自社株式、収益性の高い財産を贈与する場合は、節税効果があります。
相続時に相続財産に加算される金額は、贈与した時の価格だからです。
相続時に評価額が上がれば上がるほど、節税効果があると言えるでしょう。
メリット②贈与する相手を選べる
生前贈与は、親族に限らず、誰にでも贈与をすることができます。法律で定められた相続割合に縛られることなく、自由に贈与の対象を選べます。
これにより、各人の事情に応じて贈与を行うことが可能です。
ただし、贈与を受ける者が、贈与者の直系卑属(子供や孫)で18歳以上の場合は税率の低い特例税率を利用できますが、この要件に当てはまらない方に贈与する場合は、通常の一般税率が課税されるので、事前の検討が必要です。
メリット③贈与する時期を選べる
相続の場合、贈与したり売却したりしない限り、財産は所有者が亡くなるまで渡すことができません。
しかし、生前贈与では贈与する時期を自由に選べます。これにより、贈与を受ける側にとってもメリットがあります。
たとえば、結婚資金、進学費、住宅購入費など、具体的な用途に合わせて贈与を計画できます。
またこれらの用途の贈与については、要件を満たせば非課税となる特例が設けられています。
メリット④相続のトラブルも回避できる
相続発生前までは仲の良いい相続人同士であったとしても、実際に相続が発生すると、相続人それぞれの考えがあるため、関係性が悪くなってしまうことは多々あります。
結果として、遺産分割協議がまとまらず、いつまでも財産が分割できない事態になる可能性もあります。
生前贈与によって財産を生前に分割しておけば、相続トラブルを未然に防ぐことも期待できます。
デメリット①税務署に認められない可能性もある
生前贈与は法的に認められる条件があります。
民法に「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」と規定されています。
つまり、あげる側ともらう側が合意していることが条件です。
しかし、税務署側は「そもそも本当にお互いの合意があったのか?」という指摘をしてきます。
これに対応するために、暦年贈与の場合は以下のことをしておくことをおすすめします。
- 贈与のたび(毎回、毎年)に契約書を作成する。
- 贈与が行われた証拠を銀行振込などで残しておく。
- 預金口座は贈与した受贈者自身が管理する。
デメリット②不動産の贈与は贈与税以外の税金がかかる
不動産の贈与は注意が必要です。
それは贈与税以外の税金や費用がかかることです。不動産を贈与した場合、贈与税以外の税金を負担する必要があり、事前の費用準備が必要です。
不動産の贈与に関連する主な税金・費用は、下記のとおりです。
- 不動産取得税(固定資産税評価額の4%(土地や住宅用家屋の場合は3%))
- 登録免許税(固定資産税評価額の2%)
- 登記費用(司法書士費用)
デメリット③贈与後3年(7年)以内に亡くなると相続税の対象となる
生前贈与を行った場合、贈与者が贈与後3年(2024年以降は7年)以内に亡くなると、贈与した財産が相続財産に加算され、相続税の計算対象となります。
ただし、贈与者の相続の際に、その相続人が相続財産を相続しなければ、贈与財産は相続財産に加算されません。
また、贈与税の配偶者控除の特例や住宅取得等資金贈与の特例、教育資金の一括贈与の非課税特例、結婚・子育て資金の非課税特例などは対象外です。
デメリット④遺留分侵害額請求される可能性がある
生前贈与を行った場合、贈与された財産が遺留分の範囲を超える場合、相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
遺留分侵害額請求とは、遺留分(相続人に法律上確保された最低限の財産をもらえる権利で、法定相続分の1/2(直系尊属者のみが相続人の場合は1/3)をいいます。)が侵害されている場合に、侵害した相手に金銭で返してもらうよう請求することを言います。
例えば、子Aへの遺贈によって、子Bの遺留分が1,000万円分侵害されたら、子Bは子Aに1,000万円の「お金」を請求することができます。
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相続税対策として生前贈与を選ぶ判断基準
贈与者が若い
生前贈与は、贈与者が若いうちから計画的に行うと効果が高まります。
贈与後の3年(2024年以降は7年)以内に亡くなると、贈与した財産が相続税の対象となります。したがって、若いうちから生前贈与を始めておくことで、相続税の軽減効果を最大限高めることができます。
複数人へ財産を贈与したい
推定相続人が複数いる場合は、複数人への贈与を検討することも有効です。
3人に贈与をすれば、当然3倍の速度で財産を移転することができます。
複数人に、かつ若いうちから生前贈与を始めておけば、さらに効果は高まります。
特定の人だけに財産を渡したい
生前贈与は、贈与する相手を自由に選ぶことができます。
法律で定められた相続割合に縛られることなく、特定の人だけに財産を渡すことが可能です。
たとえば、特別な事情や希望に応じて、贈与を受ける相手を選びたい場合に適しています。
贈与する時期を選びたい
生前贈与は、贈与する時期を柔軟に選ぶことができます。
例えば、結婚資金や進学費、住宅購入費など、具体的な用途に合わせて贈与することを計画できます。相続の場合は、贈与者が亡くなるまで待たなければならないため、生前贈与の方が適切な場合もあります。
不動産を贈与したいケース
家賃収入がある不動産や価格上昇する可能性が高い不動産、業績がどんどん上がることが予想される自社株式などがある場合は、相続を待つよりも生前贈与したほうが良い場合があります。
相続時精算課税贈与を選択すれば、相続財産に加算される時の金額は、相続時点の評価額ではなく、贈与時点の評価額となるためです。
贈与から相続までの間の価値の増加額が大きいほど、効果が高くなります。
しかし、移転コスト(不動産取得税、登録免許税)がかかりますので、事前の検討が必要です。
生前贈与に関する質問
生前贈与が行われても相続放棄はできますか?
相続放棄(相続が開始したことを知った日から3か月以内に家庭裁判所に申し立てをします。)をすることは可能です。
生前贈与を受けることと相続を放棄することの間には関係性はありません。
しかし、遺産分割協議において相続分の放棄をする場合は、詐害行為取消権に注意が必要です。
借金のある相続人が、遺産分割協議において全く財産を相続しないという合意をした場合に、債権者から詐害行為取消権が行使される可能性があるためです。
詐害行為取消権とは、債務者が資力が乏しいにも関わらず、自己の財産を減少させる法律行為を行った場合(=詐害行為)に、債権者が行った詐害行為を取り消すことができる権利です。
株は生前贈与をすることで節税対策になりますか?
上場株式も非上場株式も、将来的な価値の増加が見込まれるのであれば、生前贈与することによって、相続税の負担軽減につながる可能性はあります。
ただし、非上場株式については、事業承継問題も絡むものなので、そもそも贈与することが適しているのか、そのタイミングはいつなのか、誰に贈与するのか、などの事前の検討が必要です。
誤った贈与をしてしまうと、節税はできても、事業承継が上手くいかないなどの問題が生じますので、注意が必要です。
相続税対策としての生前贈与はキークレア税理士法人にご相談ください
ここまで、生前贈与のメリット・デメリット、相続対策で利用する判断基準などを説明してきましたが、生前贈与はあくまで相続対策のための手段です。
キークレア税理士法人では、税金を減らすことだけを目的とするのではなく、相続対策をする方の大事にしてきた人生観や家訓、また、どのような相続にしたいのかをしっかりお聞きし、グループ一丸となって最適案を検討致します。
相続対策、生前贈与をご検討の方は是非キークレア税理士法人にご相談ください。