相続税の障害者控除|適用要件や申告の要否などについて解説


目次
相続税の障害者控除とは、障害を持つ相続人が財産を相続する際、相続税額から一定額を控除できる制度です。
この制度は、相続人の中に85歳未満の障害者がいる場合に適用され、被相続人が死亡した後の障害者の生活負担を軽減することを目的としています。
障害者控除の特徴は、相続財産の評価額を減額するのではなく、相続税額から直接控除する点です。
これにより、相続税の負担が大幅に軽減される可能性があります。
このコラムでは、相続税の障害者控除について、その適用要件や控除額の計算方法を詳しく説明いたします。
相続税の障害者控除とは
相続税の障害者控除とは、障害を持つ相続人が財産を受け継ぐ際に、相続税額を一定額控除できる制度です。
この控除は、85歳未満の障害者が相続人にいる場合に適用されます。
障害者の多くは家族の扶養を受けていることが多いため、被相続人の死亡後も障害者が生活に困らないようにすることを目的としています。
そのため、被相続人自身が障害者である場合にはこの制度は適用されません。
この障害者控除の特徴は、相続財産の評価額を減らすのではなく、直接相続税額から控除できる点にあります。
そのため、相続税の負担が大幅に軽減される効果があります。
相続税の障害者控除適用の3つの要件
障害者控除の適用を受けるためには次の3つの要件を全て満たしている必要があります。
以下で詳しくご説明いたします。
- 財産を取得したときに日本国内に住所がある。
- 財産を取得したときに85歳未満の障害者である。
- 財産を取得した人が法定相続人である。
①財産を取得した時に日本国内に住所がある
相続税の障害者控除を適用するためには、相続開始時に相続人が日本国内に住所があることが必要な条件です。
ただし、以下の場合には日本国内に住所があっても適用されません。
- 相続人が一時居住者である場合
一時居住者とは、相続開始時に在留資格(外国人が日本で滞在するための資格)を有し、かつその相続開始前15年以内に日本国内に住んでいた期間が合計10年以下である人を指します。 - 被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人である場合
外国人被相続人とは、相続開始時に在留資格を有し、日本国内に住所がある被相続人のことです。
非居住被相続人は、相続開始時に日本国内に住所がない人で、以下のいずれかに該当する人を指します。
- 相続開始前10年以内に日本国内に住所がありながら、日本国籍を有していなかった人。
- 相続開始前10年以内に日本国内に住所がなかった人。
このような要件があるため、障害者控除を適用するには、相続人および被相続人の居住状況や国籍に注意する必要があります。
②財産を取得した時に85歳未満の障害者である
相続税の障害者控除を受けるためには、85歳未満の障害者であることが要件となります。
この控除は、障害者の区分に応じて控除額が異なります。
障害者は「一般障害者」と「特別障害者」に分けられ、それぞれ以下の条件を満たす必要があります。
一般障害者に該当する方
- 身体障害者手帳において3級から6級と記載されている方
- 精神障害者保健福祉手帳において2級または3級と記載されている方
- 知的障害者と判定された方のうち、重度の知的障害者に該当しない方
特別障害者に該当する方
- 身体障害者手帳において1級または2級と記載されている方
- 精神障害者保健福祉手帳において1級と記載されている方
- 重度の知的障害者と認定された方
詳細な条件については、国税庁のHPでも確認することができます。
第19条の3《未成年者控除》関係|国税庁③財産を取得した人が法定相続人である
財産を取得した人が法定相続人であることも障害者控除の適用を受けることができる要件です。
法定相続人とは民法で決められた、被相続人の財産を相続する権利を持つ人を指します。
法定相続人以外の障害者が遺贈で財産を受け取っても適用されません。
なお、相続放棄した法定相続人である障害者が死亡保険金等を受け取った場合は、みなし相続財産を受け取ったとみなされ、障害者控除の適用対象となります。
相続税の障害者控除の計算方法
相続税における障害者控除の額は、相続開始時からその相続人が満85歳になるまでの年数(1年未満の端数は切り上げ)によって計算します。
【一般障害者】
相続開始時の年齢:41歳9ヶ月
85歳-41歳9ヶ月=43歳3ヶ月→44年
44年×10万円=440万円
【特別障害者】
相続開始時の年齢:29歳3ヶ月
85歳-29歳3ヶ月=55歳9ヵ月→56年
56年×20万円=1,120万円
一般障害者よりも特別障害者のほうが重い障害を抱えているため、控除額が大きくなります。
障害者控除の適用が2回目以降の計算式
過去の相続で既に障害者控除の適用を受けたことがある相続人は、2回目以降に適用を受ける際には控除額に制限があります。
過去の相続で既に障害者控除額の全額を控除している場合はそれ以降の相続では障害者控除の適用を受けることができません。
控除額が残っている場合は、その相続での控除額と比べて少ないほうの金額を控除します。
計算の方法は以下の通りです。
【1回目の相続】
相続開始時の年齢:45歳5ヵ月 一般障害者
障害者控除の額
85歳-45歳5ヵ月=39歳7か月→40年
40年×10万=400万円
1回目の相続での控除額→300万円
1回目の相続での障害者控除の残額400万円-300万円=100万円
【2回目の相続】
相続開始時の年齢:70歳4ヵ月 一般障害者
障害者控除の額
85歳-70歳4ヶ月=14歳8か月→15年
15年×10年=150万円
1回目の相続での障害者控除の残額 100万円
2回目での相続での控除額 100万円(150万円>100万円)
控除額が相続税額より大きくなった場合
相続税の計算において、障害者控除額が相続税額を上回り、控除しきれない金額が残る場合があります。
その際、残った控除額を障害者本人の扶養義務者の相続税額から差し引くことが可能です。
これは、扶養義務者が相続した財産の一部が、障害者の生活を支えるために用いられると考えられているためです。
扶養義務者に該当するのは、次のような人々です。
- 配偶者
- 直系血族(父母、祖父母、子、孫など)
- 兄弟姉妹
- 3親等以内の親族で一定の条件を満たす人
扶養義務者であるかどうかは、実際に扶養しているか否かに関わらず、法的な関係で判断されます。
扶養義務者が複数いる場合には、以下の方法で残りの控除額を分配します:
- 扶養義務者間で協議を行う
- 各扶養義務者の相続税額に応じて按分する
詳細については、専門家に相談し、正確な計算を行ってください。
障害者本人が相続財産を取得しない場合
障害者控除額が障害者本人の相続税額を超えた場合、その残額は扶養義務者の相続税額から差し引くことが可能です。
ただし、障害者本人が相続財産をまったく取得しない場合には、障害者控除の適用は認められません。このため、控除しきれない障害者控除額も発生しないことになります。
障害者控除を受けるためには、障害者本人が相続財産を少しでも取得することが必要です。
この条件を満たさない場合、控除そのものが適用されません。
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相続税の障害者控除の申告方法
障害者控除の適用を受けるには、相続税申告書第6表、未成年者控除額・障害者控除額の計算書の「2障害者控除」欄を記入し提出します。
また添付書類として障害者手帳のコピーなど、障害の程度を証明する書類を提出します。
障害者控除を適用して相続税が0円になったら申告不要
障害者控除は申告することが適用要件ではありません。
障害者控除を適用して相続税が0円になった場合は申告が不要です。
なお、当然のことながら控除しきれず相続税の納付がある場合は申告が必要ですのでご注意ください。
相続税 | 申告の要否 | |
---|---|---|
障害者本人 | 0円 | 不要 |
納付あり | 必要 | |
扶養義務者 | 0円 | 不要 |
納付あり | 必要 |
障害者控除の適用を税理士に相談するメリット
障害者控除の適用をお考えでしたら、ぜひ税理士にご相談ください。
税理士に相談することで障害者控除の適用要件に当てはまるかの判断をし、当てはまった場合には過去の障害者控除の適用も考慮して、控除額の計算をしてもらえます。
また、障害者控除の適用以外にも複雑な相続税額の計算も依頼できるため、無申告や過少申告を避けることができます。
さらに適用が可能な各種減額制度や財産評価の減額制度を適用することで、相続税の納め過ぎを防ぐことができます。
相続税の障害者控除に関するQ&A
相続開始時点で申請中のため障害者手帳がなくても適用できますか?
A.適用できる可能性があります。
相続開始時点で障害者手帳が交付されていない場合でも、申請中であることを理由に障害者控除を適用できる可能性があります。
ただし、相続税申告書を提出する際に以下の条件をすべて満たす必要があります。
-
相続税申告書提出時点で障害者手帳を取得済み、または申請中であること
- 手帳の交付がまだ完了していない場合でも、申請手続きが進行中であることを証明できれば要件を満たします。
-
医師の診断書により、相続開始時点で障害者手帳に記載される程度の障害があったことが確認されること
- 診断書で障害の程度が適切に証明される必要があります。
相続開始時点で85歳だった場合は適用されませんか?
A.適用されません。
障害者控除の適用要件が85歳未満ですので、適用されません。
配偶者が障害者の場合、控除額はどうなりますか?
A.配偶者控除と障害者控除を併用することができます。
配偶者が障害者の場合、配偶者控除と障害者控除の両方を併用することが可能です。
これにより、配偶者の負担をさらに軽減することができます。
配偶者に対する相続税額軽減の適用によって相続税額が0円となった場合でも、未使用の障害者控除額が残る場合があります。
この場合、その残額は扶養義務者の相続税から差し引くことが可能です。
なお、配偶者控除と障害者控除は独立して適用されるため、それぞれの適用要件を満たしている必要があります。
相続税の配偶者控除とは?要件や計算式、適用のデメリットなど相続財産が未分割の場合、控除は適用できますか?
A.はい、できます。
相続財産が未分割であっても障害者控除は適用できます。
配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例のように相続財産が分割されていることが適用要件ではないため、未分割であっても適用は可能です。
相続税の控除や計算について詳しく知りたい方はキークレア税理士法人にご相談ください
85歳未満の障害者が財産を相続するときには、相続税の障害者控除を適用することで相続税額から一定の額を控除できます。
相続税の障害者控除は、障害者の生活の負担を少しでも軽くする目的で設けられた制度です。
障害者控除だけでなく、相続税の控除や相続財産の評価の特例の適用をお考えでしたら、ぜひ専門家である税理士にご相談ください。
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